Filed under: SUV, 試乗記, メルセデス・ベンツ, オフロード, ニューモデル
【ギャラリー】2019 Mercedes-Benz G-Class68
フランス、シルキュイ・ド・シャトー・ド・ラストゥール。石コロと轍(わだち)だらけの未舗装のサーキット。深い水たまりにはまると、フロントガラスに大量の泥水が跳ね上がる。頭上にそびえる巨大な風力発電機は、まるで白く塗られたレッドウッド(アメリカスギ)のように、コーナーの外縁に沿ってにょきにょきと顔を出している。普通に注意を払って走れば、このラリー用のテスト・コースを安全に楽しむこともできるだろう。しかし、これは新型メルセデス・ベンツ「Gクラス」だ。ダラダラ走れば、その凄まじい能力に触れるチャンスを逃してしまう。まあ、Gクラスを購入する大半の人々はその能力に触れるどころか、大型駐車場で乗り回すくらいしかできないというのが正直なところなのだが。 「メルセデスAMG G 63」のアクセルを踏み込むと、ツインサイドパイプが唸りを上げた。3mはありそうな岩の間を、70km/h強で駆け抜ける。セバスチャン・ローブでもなければ、こんな悪路ではその程度のスピードでも速すぎるほどだ。もし助手席に座っていればあまりの速さに、旧い"ゲレンデ・ヴァーゲン"から引き継いだダッシュボードに備わるグラブハンドル(単なる郷愁から残された過去の遺物ではなく、実用的な装備であることがよく分かる)を必死に握り続けることだろう。まるでスプラッシュマウンテンから急降下する時みたいに、本能的にしがみついてしまうに違いない。

南フランスにある現実の山で、新型Gクラスは自身の驚異的なコントロール性を証明してみせた。正直に言えば、旧型のGクラスだって同じように走ることができただろう。なぜならこの山は、ラグジュアリーな先代の「500 GE」が、1990年にプレスの前で発表された際にも使われたコースだからだ。しかし過去30年近くの間に生産されたGヴァーゲンで、2019年モデルの新型Gクラスと同等の信頼を置けるものはまずないだろう。旧型のボール&ナット式油圧アシスト・ステアリングは、低速では重く、高速では緩さが目立ち、スピードメーターなどは、議会で質問を受ける政治家の答弁よりも曖昧だった。そこで新型では、岩を乗り越える能力が自慢の旧いソリッド・フロント・アクスルに代わり、ダブルウィッシュボーン独立懸架サスペンションを採用。前輪の位置決め、コントロールの維持、信頼性の向上などに、驚くほどの性能向上を実現した。
さらに、ボンネット下のV8エンジン周りに、サスペンションブリッジと呼ばれるストラットタワーブレースを装着することで、フロント剛性も改善された。銀行の金庫のようなルックスだけでなく見た目通りの剛性感を備えていた旧型と比べても、全面刷新された新型は総合的に55%も剛性がアップしているという。その揺るぎない堅牢性を前にすれば、他のどんなクルマも震え上がるに違いない。「驚異的」という言葉以外に、このクルマを表現する方法が見つからない。

それでは、カーター政権時代からGクラスを象徴する「粘り強さ、岩場の走破性、文字通りどんな場所でも行ける能力」はどうなったのか? エンジニアたちは、ダブルウィッシュボーン式フロント・サスペンションをラダーフレームのできるだけ高い位置に取り付けようと努力し、最終的に最低地上高(24.1cm:従来比+6mm)、最大渡河水深(70cm:従来比+10cm以上)、ランプブレークオーバーアングル、アプローチアングル、デパーチャーアングル(いずれも1度ずつアップ)の性能を向上させた。 リアのソリッド・アクスルは踏襲されたが、4本のトレーリングアームで舗装路面における乗り心地とハンドリングを向上させている(詳細は後ほど)。4輪駆動のローレンジも残されており、同様に伝統的なセンター、リア、フロントに備わる3つのデフロックは、今や空気圧制御式から電子制御式に進化した。さらに新型G 550に追加された「Gモード」は、不要なシフトチェンジを控え、ステアリング特性とスロットル制御をオフロード走行に最適化させる。しかし新型G 550は、依然としてオフロード・エンスージアストのためのオフロード車であり続けている。オフロード車の意味、使い方、乗るべき時、そしてそれに乗る理由を熟知している本物のマニアのためのクルマだ。そうなりたいと願う初心者オーナーは、オフロード・ドライビングというものに心して取り組むべきだろう。

もう1台のAMG G 63はというと、基本的にG 550とハードウェアは共通で、クリアランスもほぼ同等だ(ただしサイドパイプには注意)。しかし、オフロード走行用モードはGモードが1つだけではなく、ランドローバーのように「トレイル」「サンド」「ロック」と使い分けることができる。特にアダプティブ・サスペンションとステアリングの変化が顕著だ。G 63がこのような設定になっているのは、オフロードにさほど興味のない人々(あえて言えば「気取り屋」)にもっと購入してもらうためでもある。彼らには、分かりやすいオフロード設定がたくさんあった方がいいからだ。 もっとはっきり言えば、G 550もAMG G 63も、このような「オフロードにさほど興味のない」人達が引き続き顧客の大部分になる可能性がある。この気取り屋たちに、独立懸架サスペンションや改良されたソリッドアクスル、電動ステアリングなどによって、オンロードでは荒くて酷かった旧型のGクラスが、いかに現代的に進化したのかを説明しても、新型の魅力は十分に伝わらないだろう。とは言えもちろん、旧型はオンロードでも面白かった。無骨で不変のルックスや、高い着座位置に多くの人が魅了され、だからこそオンロードにおける酷さにも我慢してきたのだ。

しかし、今やそんな魅力をずっと文化的で扱いやすいクルマで楽しむことができる。高速道路における安定性と、低速時の操縦性は大幅に改善された。以前はその力強さ...というかクセの強さに、Gクラスを購入することに二の足を踏んだ人も、今度こそはきっと欲しくなるはずだ。確かに、依然として車高は高く、不安定で、ステアリングも遅い。メルセデスの大型SUVとしてはGLSクラスの方がはるかに運転しやすい。しかし、以前のように魅力と引き換えに忍耐を強いられるトレードオフは、もはやそれほど顕著ではなくなった。

人々が旧型Gクラスをやめて他のクルマを購入してしまった第一の理由が「強力すぎるクセの強さ」だとしたら、第二の理由は「昔らしさ」を意識し過ぎたそのインテリアだろう。旧型の後部座席は窮屈で、ドライバーの足元のスペースは足首をねんざしそうなほど狭く、まったく使いやすさなんてあったものじゃなかった。しかもカップホルダーの1つはメッシュの袋で、センターコンソールにちょこんと取り付けられていたが、影では「ジョックストラップ(男性の局部用サポーター)」なんて呼ばれていた。それも新型では姿を消し、便利な2つのカップホルダーがキャビン内に設置されている。そこにはもう、孫の服を着てカッコつけているおじいちゃんのような奇妙さはなく、紛うことなき現代のメルセデス・ファミリーの一員としての威厳を感じることができる。
Continue reading 【試乗記】2019年型メルセデス・ベンツ「Gクラス」 古くて新しいクールなクルマ
【試乗記】2019年型メルセデス・ベンツ「Gクラス」 古くて新しいクールなクルマ originally appeared on Autoblog Japan on Fri, 22 Jun 2018 22:30:00 EDT. Please see our terms for use of feeds.
Permalink | Email this | Comments