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ゴルフGTEで向かった先は、マヨルカの中規模サーキット。短い下りのホームストレートと長い裏ストレートを挟んだアップダウンのあるツイスティなコースで、高速コーナーと呼べるものは1カ所、それも幅広い直角コーナーだったから「ゴルフRの良さが引き出せるかな?」と心配だったが、なかなかに面白い分析ができた。
走りの印象を伝える前にゴルフRの変更点を説明しておくと、まず今回の目玉は2.0TSI(直噴ターボ)がパワーアップしたことだろう。その最高出力は280psから310psへと、遂に大台を超えてきたわけである。ちなみに前期型の280psというパワーは、湿度や気温が高い日本の環境を考慮して、セーブされたパワー。欧州では300ps出ていたものがデチューンされていた。だから欧州基準でいうと10psのパワーアップとなるのだが、どうやら"7.5型"では欧州と同じパワーになる目算が高い。というわけで日本仕様に限っては、大幅にパワーアップ! ということになる。わかってますってば(笑)
外観面ではC型の(コの字型か?)LEDヘッドライトと水平基調のグリル&バンパー、そして吸気効率向上を狙ったかバンパーサイドのエアスクープが特徴的。整流効果は新型の狙いでもあるようで、サイドステップやリアハッチ上のスポイラー、リアディフューザーにも同様に空力形状が与えられている。
そして今回から「Performance Package」と銘打たれたオプションが追加され、今回の試乗車にもこれがインストールされていた。
その内訳はアクラポヴィッチと共同開発したチタン製の「R-Performance」エキゾーズトシステムと専用のブレーキローター、そして19インチホイールにミシュラン パイロットスポーツ カップ2の組み合わせ。サーキット走行を意識した内容である。
ちなみにこのパフォーマンスパッケージを装着すると、ノーマルでは250km/hだったリミッターが、267km/hまで引き上げられるという。
試乗車には5ドアハッチの6速MTと7速DSG、そしてヴァリアントの7速DSGが用意されており、ボクはハッチバックの2台に試乗した。試走はインストラクターの先導付き走行で、知らないコースを手っ取り早く攻略するにはもってこいのシチュエーションだった。
アダプティブシャシーコントロール(DDC)のモードは当然「RACE」。ダンパーを引き締め、エンジンのブーストレスポンスを引き上げ、DSGであればトランスミッションの制御を先鋭化するモードでいざ行かん! アクセルを踏み込みブレーキを踏んで、ステアリングをねじ込んで行った第一印象は......。
「うーん、まろやか~♡」
なんだか40歳以上のオッサンにしかわからないカップ焼きそばのCMみたいになってしまったが、そのアシ付きが従来からかなり良くなって、ロードホールディン性が上がっているように感じられたのだ。
「もーいっちょ行く~?」
ってな具合で走り続けても、その印象は変わらず。タイヤが911GT3にも標準装備されるミシュラン パイロットスポーツ カップ2であることは最も大きな要因だが、そもそもその高いグリップに負けない粘り腰を、純正サスで引き出しているのは驚きである。
だから「サスペンションも改良したのか?」と訊ねたが、エンジニアは「前と同じだよ」と答えた。そしてこれを後から精査すると、ひとつの回答に行き着いた。
オプションのブレーキシステムが、ゴルフRが持つ本来の性能を引き出したのではないか? と感じたのだ。
ベルハット部分をアルミ製とすることでバネ下重量を2kg軽量化したというこのブレーキシステムは、鋳鉄ローターにピンで連結する2ピース構造となっている。パッドは純正なのだろう、その剛性や効き具合に特別なものは感じなかったが、かなり攻め込んでもこのごく普通なパッドがフェードしないのは、ローターの性能が高いから。鋳鉄部分が膨張してもクリアランスがあることでパッドの接触面は形を保つことができ、なおかつベルハットには熱が伝わりにくい(ハブなども傷みにくいだろう)。
またベンチレーテッドの通気ベーンも工夫されているのだろう、フロントヘビーで大パワーなゴルフRの荷重をぶつけても、ミシュラン パイロットスポーツ カップ2のグリップに負けない制動力でこれを何周も受け止めてくれたのである。
だからこれまではストロークが短く、ちょっと硬めだと感じていたサスペンションに荷重が掛かるようになり、しなやかに伸び縮みするようになったのだ、とボクは思った。よって荷重領域が低い一般公道では再び元の硬さを感じるだろう。
よってゴルフRは、フロント駆動基調の4WDながらもよく曲がる。回り込んだコーナーでステアリングを切り込んでも、グイッと最後まで舵が効いて、グリップが失われないのである。バネレートそのものは一般公道の走行を前提としてそれほど高められていないため(印象としてはメガーヌRSよりもソフト)、転舵に対するレスポンスはおっとりしているが、クルマとしてはそれが上質な印象を与える。
リアの接地性は従来通りに高く、オーバーステアの"オ"の字も出てこないが、荷重移動によって四肢が柔軟に伸び縮みするから、これを利用してボディの向きを変えることができ、なおかつ破綻しないという意味ではビギナーにも扱いやすいと思う。
さて目玉のエンジン性能だが、厳しい見方をすると、ちょっとだけ惜しかった。
+30psのパワーは確かに素晴らしく、全開加速で胸の空くような走りをするのは確かなのだが、その吹け上がりやフリクションにはやや粗さが目立ち、そこに畏怖の念を感じてしまうほどのスムーズさが感じられなかった。エミッションや耐久性を考慮した上での話だが、エンジンキャパシティ的にはもう相当ギリギリの線まで行っているのだろう。
低回転領域でターボラグがあり、低速コーナーの立ち上がりでは意識して早めにアクセルを開けないと加速が鈍いのも気になった。ここら辺はやはり同じ4気筒でも、ブースト制御にアンチラグ機能を有するケイマンS/ボクスターSには適わない(価格も大きく違うが)。
またゴルフRはシャシー性能が大幅に上がり、グリップの高いタイヤを履いたことから、エンジンの影が薄くなってしまった、とも言える。
だからサーキットを速く確実に走りたいならば、トランスミッションは7速DSGがよいと思う。そのギア比も従来から一段増えた7速DSGとなっているし、手元の資料によればDSGのみその最大トルクが380Nmから400Nmになっているというのである。
対して6速MTはストロークも大きく、スポーツカーと比べるとシフトフィールが格段によいというわけでもない。もちろんマニュアルトランスミッションには「クルマを動かす」という根源的な愉しさはあるから、ゴルフというハッチバックを楽しく運転したいならこれもあり。とはいえそれなら、最もポテンシャルが高いゴルフRではなく、GTIや普通のグレードでもよいと思うのだ。もっとも日本に6速MTが入るかはわからないのだが。
とはいえ500万円台前半で購入できるインポートカーとしては、そのトータル性能は十分に高く、そして押し出しも強い(逆に言うとスバルWRXなどは、本当にバーゲンプライスだ)。願わくばその立ち位置を考えると、もう少し旋回時におけるリアタイヤの接地バランスを薄めて欲しい。せっかくの4MOTIONと電子制御技術を持っているのだから、タイヤを接地させながらも微妙にスライドさせて、マシンコントロールの愉しさへと踏み込んで欲しいのだ。ゴルフRは単なるお金持ちのスポーツカーではなく、そうしたスポーツドライビングへの意識が高いアマチュアに提供するスポーツモデルになって欲しいと思う。そうすれば911GT3が買えなくても、僕たちにはフォルクスワーゲンがある! と胸を張れる。
もっともそうしたモデルは、限定発売されたニュルアタッカーである「GTIクラブスポーツS」の役目なのかもしれないが。
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【海外試乗記】フォルクスワーゲン『 Golf R / Golf GTI 』をスペイン・マヨルカ島のサーキットで徹底分析:山田弘樹 originally appeared on Autoblog Japan on Fri, 12 May 2017 04:00:00 EDT. Please see our terms for use of feeds.
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